【連載7】ロカビリー | 牧歌組合~45歳からの海外ミュージシャン生活:世界ツアーに向けて~

【連載7】ロカビリー

オダギリジョーが演じる五代雄介(仮面ライダークウガ)は2000の特技を持つ。仮面ライダークウガの第一話は、迷子になって泣いている男の子に、1番目に習得した彼の特技が”笑顔”であることを話しながら、雄介がなだめるシーンから始まった(と思う)。

仮面ライダーが大好きな僕も、2000の特技を持ちたいと思って生きている。

楽器の演奏(コントラバス、龍笛、少し三線、ギター)、語学(ドイツ語、スペイン語、英語、コンピュータ言語)、絵を描くこと、その他諸々は、2000の特技の一要素に過ぎない。

コントラバス。弓でクラッシック曲も弾くし、ジャズやロックでは指弾き(ピチカート)するし、タンゴの特殊な奏法も、まあ、なんとくマスターしている。とりわけ、僕が自慢できるのは、ロカビリーやブルーグラスで使われるスラップ奏法ができること。最近、エステルのバンドでもそれを使った。



スラップ奏法を学んだ経緯。1989年秋、東大駒場でのテント劇団公演をめぐる学生逮捕事件のあと、 西新宿にある中古レコード店、VINYL JAPANでバイトを始めた。 初月給を持って大久保のクロサワ楽器店に行き、十万円台のスズキのコントラバスを買った。 生まれて初めて買ったコントラバスだ。 買ったあと担いで電車で渋谷まで、渋谷から徒歩で駒場寮まで帰ったが、 初めての「コントラバス運び」に、 ひどく疲れた記憶がある。

VINYL JAPANのバイトの同僚に、 早稲田大学に通いつつサイコビリーバンドでウッドベースを弾いているサトルがいた。 髪は黄色で若干モヒカンでトサカのように立っている。

ウッドベースを買ったことを伝えると、 「あ~見に行きて~弾かせて!」 というので、バイト上がりに駒場寮まで来てもらい、 スラップ奏法を教えてもらった。 弦を引っ張り指板の反響音を裏に入れ、 さらに返した手の平で裏打ちを入れる。

課題曲はエルビス・プレスリーの「BLUE MOON OF KENTUCKY」。 指弾き、弓弾きに加えて、
スラップ奏法がその日から僕の練習メニューに加わった。

それからしばしばサトルは駒場寮に遊びにきた。翌年の春、駒場寮にサトルが泊まった朝、「なんかバイト行きたくね~」 と二人して仮病でずる休みして、彼の車で高尾山まで朝からドライブした。 二人ともウッドベースを持って。 軽トラの荷台に載せてロープで固定して。

高尾駅の背後にある小山にウッドベースを担いで登った。
「なんか山頂で弾いたら、 いい音出るんじゃね?」
と、二人で阿呆なこと考えて、 実践。

重いコントラバスを担いで、ケモノ道しかないような山に登るのは、いばらのみちだった。
疲れたら、サトルが尋ねる。
「さて、ここでクイズです。
 安易に進めるコースと、
 進むのが困難なコース、
 二つがあったとします。
 あなたはどっちを選びますか??」

「断然、困難なコース!!」
と私が答える。
二人とも俄然やる気になり、 駆け足で山を登る。

次に疲れたら、私が尋ねる。
「え~、ここでクイズです。
 誰でも通れる道と、
 いばらのみちが、
 あったとします。
 どっちを選びますか??」

「いばらのみち!!」
とサトルが答える。
二人とも俄然やる気になり、駆け足で山を登る。
阿呆である。

山頂について、二人で
「BLUE MOON OF KENTUCKY」
をスラップ奏法で弾き、歌った。
山頂で鳴らしたウッドベースの音は
想像したほどは正直、よくなかったが、
山を降りて食べた蕎麦は
うまかった。
(つづく)