【連載4】種田ンスとシンコパ | 牧歌組合~45歳からの海外ミュージシャン生活:世界ツアーに向けて~

【連載4】種田ンスとシンコパ

【連載4】種田ンスとシンコパ

今、猛烈に奏法を改造中だ。打法ではなく。

アルゼンチン・タンゴのコントラバス奏法に「シンコパ」という奏法がある。まあ、「シンコペーション」と同じ意味で、(フィラデルフィアソウルや、ローウェル・ジョージのシンコペーション感覚に近いものを個人的に僕は感じるのだが、)4拍子1小節目内の1拍めを弓で力強く8分音譜で弾き、2拍目の裏(弱拍)と3拍を指でこれも力強く弾き、4拍目の裏ではまた弓で。これを、暫くの間繰り返す。ガブリエルが言うように、タンゴは単純な音楽ではない。

なんでこんな特殊な奏法が生まれたのか、日本でよく考えたことがあったが、ヨーロッパで暮らし始めたまにタンゴのダンスホールとかに行くと、なんとなく答えがわかった。タンゴのダンスホールはとてもうるさい。踊る大勢の人々の足音で。とくに、ハイヒールと床がぶつかり合うノイズ。その騒音のなかで、くっきりとしたリズムを人々に聴かせ、気持ちよく踊ってもらうためには、ビートの要であるコントラバス奏者は、ミュートビート(弱拍)を巧みに活用した、時に奇異な際立つドラスティックな音を出す必要がある。ジョン・コルトレーンのカルテットで、世界一うるさいドラマー、エルヴィン・ジョーンズの隣で、フラメンコ奏法など特異なベース奏法を編み出した、ジミー・ギャリソンと同じ発想。


指だけで弾いた場合、弓だけで弾いた場合とくらべて、シンコパの弓&指の忙しない持ち替えが作るビートは、くっきりしたビートを創り出す。そして、その弓弾きと指弾きの切り替えを瞬時で行わなければならない。速いテンポの曲で、♩=120以上だとして、一拍が500ミリ秒、8分音符ひとつは、250ミリ秒。アタックの効いた音を出すための”白紙の体勢”を準備するコンタクト時間(これが多分一番大事)も作らなければならないから、おそらく、100ミリ秒以内に弓弾きと指弾きの切り替えを行う必要がある。

僕が日本にいたときのコントラバスの師匠は2人とも、(教えてもらった当時、)ドイツ式の弓を使っていた。そのため僕もドイツ式で約24年間弾いてきたのだが、ガブリエルとタトーのバンドに参加してリハーサルを繰り返すなか、ドイツ式の弓でタンゴ、とくにシンコパを演奏することに限界を感じた。そして遅ればせながら、2013年の12月のクリスマスの時期くらいから、フランス式の弓に持ち替えることに決めた。

たかが、コントラバスの弓のドイツ式からフランス式への持ち替え、ではない。楽器に対する体の構え方、楽器の持ち方、立ち方、全ての改造が必要になった。年末年始の休みは全てその練習に充てた。だが、2014年1月、タンゴバンドのコントラバス奏者としてデビューしたとき、フランス式奏法に変えてからたった2週間くらい。そのライブを見にきてくれた、アルゼンチンの国立オーケストラのコントラバス奏者である、エルナン・マイサさんが僕にフランス式の弓の使い方と、タンゴにおける奏法を教えてくれることになった。

エルナンは素晴らしい音楽家で、その素晴らしさの詳細はおいおいしつこく書かせてもらうとして、レッスンで一番感銘した言葉が、「力が、カラダの中心だけに向かうようにする」というものだった。体はリラックスして力まず、約30グラムの腕の自然落下する重力を活用して、水が漏れないようにその力を”いい音”のど真ん中、おなかのど真ん中に叩き込む。それを、歩いているときも、ボケーっとしているときもいつも考えて生活してみて、とエルナンは最高の笑顔で教えてくれた。松永さんの教えに近い。僕はいつも師匠に恵まれる。

さて、そのカラダを作るため、練習しながら僕は色々考え、試行錯誤した。自分のカラダをよく知らなければならない。僕は両足がかなり細く、そこそこ長い。だが、頭は大きく、胸板は厚い。そして腕は長く、未来少年コナンに出てきたロボットみたいなカラダをしている。だから、よく歩いているときもフラフラと上体の揺れで動いているような歩き方をするし、ベースを弾いているときも、よく上体がフラフラと揺れている。不安定な上体のため「ここで強い音で決めたろ!」と思ったときに、空振りしてしまうことが25年コントラバスを弾いてきて、しばしばあった。

この自分の悪いクセを、どうしたら克服できるだろうか?

何となく自宅で日本の野球選手のWikipediaをボケーっと読んでいたとき、元中日ドラゴンズ、横浜ベイスターズで活躍した種田仁選手の打法を、久しぶりに見た。これかも。上体を低くしてガニマタでベースを構えたら、無駄な上体の揺れが制限され、空振りする確率が減る。そもそも非力な僕は、重いものを持つとき、ガニマタで腰を入れないと持てない。ヨーロッパ人のどしっとした下半身や、チャールス・ミンガスの巨体とは全く異なったカラダを、日本人の僕は持っている。そういえば、柔道や空手をやるときも、腰は必ず落とすし、雅楽で袴をはいていたときなど、腰を落とし、上体を揺らさないようにしないと歩けないし、笛もいい音が出ない。その姿勢がもしかしたら、日本人の力を出すための基本体勢なのかもしれない。

そのあと、演奏後「マサ、かなりリズムが変わったな」と言ってもらえる機会が増えた。
(つづく)








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