雅楽の越天楽と3.11の震災@檜町公園 | 牧歌組合~45歳からの海外ミュージシャン生活:世界ツアーに向けて~

雅楽の越天楽と3.11の震災@檜町公園











 あれから一年である。

 僕が、東京ミッドタウンの裏の檜町公園で、ひしめく人の群れのなかで、龍笛で越天楽を吹いた日から、ちょうど一年である。

 その日、寸前まで会議をしていた。当時担当していた新規開発予定のインターネット広告システムの基盤設計の話だったと思う。Web業界にありがちな話で、ネットワーク設計やデータベース設計を行いハードウェア投資寸前のフェーズとなっていても、「どのくらいのリクエストが実際に来るのか?」「どのくらいのレイテンシ(リクエストへの応答時間)が求められるのか?」
いまだに明確になっていない。「なぜなっていないのですか?」とインフラチームのY氏らに詰め寄られながら、自分としては他人(ビジネス側や企画側)のせいにしたい心でやまやまなのであるが、システム基盤のリーダーであるから我慢、
それらのシステム要件を彫り起こせなかった自分を責め、ひたすら「すみません、すみません、でも、今明らかになっているレガシーシステムのログや、手持ちの材料から無理やりシステム要件を掘り起こして進める以外に手はない!」と、半ば泣きべそで強弁していた記憶がある。
孤立無援な立場のなかで、一生懸命助けてくれた当時の仕事仲間、Fさんの「この先どうなるんだろう?}という表情をいまだに記憶している。

 その苦々しい会議が終わって、その日退職するYくんの退職挨拶を聞きに行こうとすると、東京ミッドタウンがグラグラと揺れた。鉄骨の軋む音が不気味に「ぎーし、ぎーーーし」と聞こえる。
地に足が着いてる感触がない。空中に浮かんでいるみたいだ、飛行船とかに乗って。正直、ここで死ぬのか、と思った。
「檜町公園に退避せよ」という館内放送が流れて、僕は、Fさんと派遣のKさんと一階まで降りた。当時ミッドタウンの13Fで仕事していたが、降りるまでに一時間以上かかったと思う。公園は寒かった。

 公園に避難したら、東京ミッドタウンに勤めている全人口がそこに押し寄せていた。1万人くらいいたんじゃないだろうか。ひきめきあう。とにかく人の群れ、人の群れ、心配そうな表情。僕は、FさんとKさんと、その他広告関係の人々の近くにいて、自分のチームのみんなの顔を、その群像のなかに必死で探していた。

 メンバーはどこにいる? 呼びかけようにも声は届かない。どこにいるのかわかない。

 そんな状況のなか、ぼくはいつも持ち歩いていた雅楽の龍笛(横笛)を鳴らして、越天楽(えてんらく)を吹いた。1万人ほどひしめく檜町公園にて。「こんなときに笛を吹いているバカは、あいつしかいない」。結果として、チームメンバーはほぼ全員集合したのであるが、「なぜ、今笛を?」「笛を吹かないで下さいっ!」「非常識だ」という非難もいただいた。いまだに、僕はあのときとった行動をきちんと説明できない。ほぼ、本能に突き動かされて、吹いた。決して受け狙いではない。本当にそうなんだ、信じてくれ。

 なぜ、越天楽を吹いたのか? 越天楽は、「原曲は中国・前漢の皇帝文帝の作品と伝えられている。しかし高祖・劉邦の軍師張良の作曲であるという説や、日本での作曲である説などもあり、実際の所はよくわかっていない。また、現在伝わっている平調越天楽は、旋律が他の唐楽に比べ独特であること等から、原曲ではなく、盤渉調に渡されていた(別の調子に合わせて編曲された)ものを、原曲が絶えたため平調に渡しなおされたものであるともいわれている。」(Wikipediaから引用)らしいが、
文字どおり、「空になにかが昇っていく」イメージの曲。違うかもしれないが。

 なあんとなく、一年前のその出来事を思い出して、今日はギターで越天楽のフレーズを弾いてみた。キーはAマイナーで、4/4拍子。





Music written by 文帝?
Arranged by dukkiedukkie(Masataka Koduka)
Am Eaug D
+ + + + + + + +
e:-5-----5-7-----7-|-----------------|
B:-----5-------5---|-7-------7---5-7-|
G:---5-------5-----|---7---7---7-----|
D:-7-------6-------|-----7-----------|
A:-----------------|-5-------5-------|
E:-----------------|-----------------|
F7 G7 A Em7/G
+ + + + + + + +
e:-5-----5---------|-5-------5-------|
B:-----6---10--8---|-----5---5-------|
G:---5-------7---7-|---6---6-6---0---|
D:-7-------9-------|---------7-------|
A:-----------------|-7-------7-------|
E:-----------------|---------5-------|


 空に昇っていくイメージ、ということで Led Zeppelin の「天国の階段」を意識してみたら、意外と面白い。
雅楽のキー、平調は多分Dマイナーに近かったと思うが、天国の階段に合わせてAマイナーにした。
Im->V->IVといってから、同主調転調してAメジャーのキーになって、bVI7->bVII7のサブドミナントマイナーを挟んで、
Iで落ち着く解釈とした。なんだか、ケルトのダンスミュージックみたいだ。雅楽も多分、ダンスミュージックだろうから。

 その後、帰宅しようと思ったが電車もなく、また、全広告にて震災情報を出したり、ちょっと災害時に似つかわしくない広告が出ているのをMくんや、Oくんと一生懸命止めたりして、その日はミッドタウン泊り。朝方、近所のFTさんと西武新宿線で帰った。

 天国への階段を、震災でお亡くなりになった人々、心傷ついた人々が登れますように。